東京都墨田区では、住宅宿泊事業(民泊)と旅館業の双方を対象とした条例改正が行われ、2026年4月1日から施行されている。管理者の常駐義務化、近隣住民への周知強化、営業可能日の制限など、これまでの無人・遠隔管理型の運営モデルに大きな影響を与える内容となっている。

本稿では、墨田区の条例改正のポイントを、住宅宿泊事業と旅館業それぞれの観点から整理し、既存事業者・新規参入者への実務上の影響をまとめる。

改正の背景

墨田区に限らず、民泊・簡易宿所の急増に伴い、「ゴミの出し方」「深夜の騒音」「管理者不在で連絡が取れない」といった住民からの苦情が各地で増加していた。警察・消防からも、緊急時に施設の関係者と連絡が取れないケースが多いとの指摘がなされていたとされる。

国の住宅宿泊事業法・旅館業法の基準だけでは対応しきれない実態を踏まえ、墨田区は独自のルール整備を進め、管理体制の実質化(責任者の顔が見える体制、常駐やICT・警備会社との連携など)を軸とした条例改正に至ったとみられる。

民泊の上乗せ条例を回避する手段として旅館業(簡易宿所)の許可を取得する事業者が増えたことも背景の一つとされ、墨田区では住宅宿泊事業と旅館業の両方に規制が及んでいる点が特徴である。

条例改正の概要(施行日・対象)

墨田区の条例改正は2025年内に区議会で可決され、2026年4月1日から施行された。住宅宿泊事業・旅館業の両方について、管理体制と近隣対応に関する規制が強化されている。

項目 内容
施行日 2026年4月1日
対象 住宅宿泊事業(民泊)/旅館業(簡易宿所・ホテル営業を含む)
主な変更点 近隣周知の強化、緊急対応体制の強化、営業可能日の制限(民泊)/管理者常駐義務、管理室・フロント設置義務(旅館業)

住宅宿泊事業(民泊)の規制内容

1. 近隣住民への事前周知の強化

墨田区が公表している「住宅宿泊事業に関するガイドライン」によれば、事業を営もうとする者は、周辺住民等に対して説明会の開催または戸別訪問により事業内容(事業者の連絡先、緊急連絡先、苦情への対応方法等)を説明し、区長に報告しなければならない。また、説明会の開催等の5日前までに、対象者へ書面による周知を行うことも義務付けられている。

周知の対象となる「周辺住民等」の範囲は、ガイドライン上、次のとおり定められている。

  • 届出住宅等と同一の建物、または同一敷地内に存する建物に居住する者・当該建物を管理する者
  • 届出住宅等の存する敷地からの距離が20メートル以内の土地に存する建物の所有者・居住者・管理者
  • 地域の自治会等から要望があった場合は、町会・自治会等への説明も行うこと

周知範囲は「20メートル以内」が正式な基準である(墨田区「住宅宿泊事業に関するガイドライン」による)。同様のテーマを扱う記事の中には「10メートル以内」と紹介しているものも見られるが、公式ガイドラインの記載とは異なるため注意されたい。

2. 緊急対応体制の強化

ガイドラインでは、周辺住民等からの苦情・問合せに対応するため、問い合わせを受けてから30分以内に現地に赴くことができる体制を確保しなければならないと定められている。深夜早朝を問わず、常時、応対または電話により対応することも求められる。

3. 営業可能日の制限

ガイドラインでは、住宅宿泊事業者が人を宿泊させる際に不在となる場合(家主不在型)、区内全域において日曜正午から金曜正午までの間は宿泊営業を行うことができないと定めている。裏を返せば、営業できるのは金曜正午〜日曜正午の週末のみとなる。

ただし、以下のいずれかに該当する場合は、この曜日制限の対象外となる。

  • 事業者が自己の生活の本拠として使用する住宅と届出住宅が同一建築物・同一敷地内にある、または隣接している場合
  • 届出住宅の居室数が5以下であり、住宅宿泊管理業務を事業者自らが行う場合
  • 住宅宿泊管理業務を行う者が、届出住宅・同一建築物・同一敷地内の建物・隣接敷地内の建物・敷地に隣接(道路を挟む場合を含む)する建物のいずれかに常駐する場合

この規制により、管理者が近くに常駐していない戸建て住宅の無人運営モデルは実質的に成立しにくくなり、今後はアパート・ビル型施設や管理者常駐型の運営形態が主流になっていくと見込まれる。

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旅館業の規制内容

墨田区は旅館業法施行条例についても改正を行い、以下のような管理体制の実質化を求める内容となっている。

1. 管理者の常駐義務

営業時間中、施設に管理者を常駐させ、管理室から施設周辺の状況を常時確認できる体制を整えることが必須となった。これまでの「緊急時に駆けつけ対応ができれば足りる」という基準から、管理者の常駐を前提とする基準へと変更されている。これにより、従来型の無人ホテル営業は成立しなくなったとみられる。

2. 管理室の設置要件

常駐する管理者のために、専用の管理室を設けることが求められる。主な要件は次のとおりとされる。

  • 客室を経由せずに出入りできる位置に設置すること
  • 管理室専用の便所を別途設置すること
  • 施設内、または同一建築物・敷地内に区画された居室として設置すること
  • 隣接する建物内に管理事務所がある場合は、例外的な取り扱いが認められる場合がある

3. フロント(玄関帳場)の設置義務化

墨田区では、旅館業法の改正(2023年施行)で全国的には緩和されたフロント(玄関帳場)設置について、区独自の基準として設置を義務化しているとされる。客室面積は9㎡以上、1室からの営業が可能とされている。

注意:フロント設置義務・客室面積基準など旅館業の詳細要件は、既存の建物構造によって対応の難易度・コストが大きく異なる。物件取得前に必ず保健所・行政書士へ事前相談すること。

既存施設への適用・経過措置

建築基準法を満たさない、いわゆる既存不適格の建物での運営が問題視されている一方、既存事業者の財産権を侵害しかねないとの懸念もあり、一定期間の経過措置や損失補償についても検討が行われてきたとされる。

既存施設が新条例の適用を受けるか、経過措置の対象となるかは、施設の状況(許可取得日・構造・運営形態)によって異なる。自己判断せず、必ず墨田区の担当窓口・保健所へ確認してほしい。

事業者への影響と対応

既存施設を運営している事業者

  • 管理者を常駐させていない施設は、営業可能日が週末(金曜正午〜日曜正午)に制限される可能性がある
  • 旅館業では、管理室・フロントなど施設面の対応が必要になる可能性がある
  • 経過措置の対象となるかどうかは施設ごとに異なるため、区への個別確認が必須

新規参入を検討している事業者

  • 戸建て住宅での無人運営モデルは成立しにくくなっており、管理者常駐型、またはアパート・ビル型施設での運営が現実的な選択肢となる
  • 近隣周知の強化により、届出・申請前の準備期間を従来より長めに見込む必要がある
  • 旅館業では、管理室・フロントの設置スペースを確保できる物件かどうかが、事前調査の重要な確認項目になる

重要:住宅宿泊事業(民泊)に関する数値基準(周知範囲20メートル・対応時間30分など)は、墨田区が公表する「住宅宿泊事業に関するガイドライン」の記載に基づいている。一方、旅館業に関する内容は複数の解説記事をもとに整理したものであり、区の公式条文・ガイドラインでの裏付けは取れていない。旅館業での運営・参入を検討する場合は、必ず墨田区の担当窓口・保健所へ確認してほしい。

まとめ

墨田区の民泊・旅館業条例改正(2026年4月1日施行)の要点は以下のとおりである。

  • 住宅宿泊事業(民泊):近隣周知の強化(説明会・戸別訪問)、緊急対応体制の強化、管理者非常駐施設の営業可能日を週末(金曜正午〜日曜正午)に制限
  • 旅館業:管理者の常駐義務化、管理室の設置(専用トイレ含む)、フロント(玄関帳場)設置の義務化
  • 既存施設への適用・経過措置は施設ごとに個別判断が必要
  • 戸建て住宅での無人運営モデルは民泊・旅館業ともに成立しにくくなり、管理者常駐型またはアパート・ビル型施設が今後の主流になると見込まれる

墨田区で民泊・旅館業を検討している場合、既存施設・新規物件のいずれについても、条例改正への対応状況を事前に確認することが重要である。

注記:本記事は2026年7月時点で確認できた情報をもとに作成しています。条例・運用は変更される場合があります。最新情報・正確な基準は墨田区の担当窓口で必ず確認してください。

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